パチンコ屋で出会った人から聞いた深イイ話【バジリスク絆よりも猫との絆】

https://ganbulingaddiction.com/2021/09/13/another-story/(新しいタブで開く)依存症体験記

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ある日、何かにずっと見られているような気がして、ふとベランダに目をやると、一匹の猫がこちらを見つめていた。

しばらく、俺と猫は目があったまま固まった。

「え?なぜ、ここに猫が…??」

状況が呑み込めないまま、時間が止まったような感じであったが、予期せぬ来客に驚くと同時に、俺はなぜか当然のように窓を開け、その猫を部屋に招き入れた。

その猫は茶色と白の毛色で、猫を特別好きでもなく、詳しくもない俺でも、カワイイ顔をした猫であると思えた。

その猫はスルリと窓の隙間から部屋に入ると、部屋中の匂いを嗅ぎ始め、電気が付いていない部屋には、腰が引けた状態でゆっくりとのぞき込んでいた。

腰が引けているのは、暗い部屋から何者かが出てきたら逃げようとする態勢なのだろう。俺はそんな猫を見ていると自然に笑顔になった。というよりも、吹き出してしまった。その声に驚いたのか、猫は体を跳ね上がらせると、物凄い勢いで入って来た窓に走っていった。

しかし、窓は閉めてしまっていたので、どうにも出来ず、フーという威嚇の声で猫なりの抵抗を見せていた。

俺は「すまんすまん」という声を掛けながら、台所に行くと、晩飯に食べようと思っていた魚を冷蔵庫から取り出し、それをほぐして猫に与えた。その猫は警戒をしながらも、恐る恐る魚の匂いを嗅いで確かめたのちに、勢いよく魚にかじりついていた。

「警戒するなら来るなよ…」と少し笑いながら、俺はその猫の姿を眺めていた。

その頃には、俺は勝手にその猫を「猫の介」という、何ともセンスのないありふれた名前をつけ、親しみを感じていた。猫の介は魚を食べ終わると、毛並みを整えはじめ、感謝の言葉もないまま、窓を開けろと言わんばかりに、俺の方をじっと見ていた。

「これだから猫は…」と思いつつも、指示されるがまま、窓を開けると、猫の介は王者の風格でゆっくりとベランダに出て行った。その姿を見て、猫は本当にトラ科なんだな…と、どうでも良いことを考えつつ、本当の疑問であった、どこから来たのかという答えを探していた。

猫の介はベランダの端まで歩くと、僅かな隙間から潜るように、隣のベランダへとすり抜けて行った。

「隣の家か?いや、そんなはずはない。隣の住人から猫を飼っているなんて聞いたことがない」
「あ!引っ越して来た人か…!」

どうやら、最近同じフロアに引っ越してきた住人の飼い猫なんだろう、という見当がついた。引っ越し業者が同じフロアで作業をしていたのは、見ていたので、入居者がいることは知っていた。だが、猫を飼っていて、その猫がうちの家まで探索に来るとは思いも寄らなかった。

それから、猫の介は時々、俺の家まで来るようになった。

勿論、俺は一人暮らしなので、不在の時もある。それを含めると、毎日のように来ていたかもしれない。視線を感じる時は、だいたいベランダに猫の介がいるというパターンである。餌付けをしたと言われれば、それまでだが、俺としては、俺に好意があって訪れていると受け止めている。

春には人の家のベランダで日向ぼっこをし、夏には「早く涼しい部屋に入れさせろ」と言わんばかりに、窓の網戸をひっかくようになり、秋には風に吹かれながら、茶色と白色の毛をなびかせ、冬には、僅かに積もった雪に足跡の残しながらやってきて、窓の前に体を膨らませてたたずんでいる。

そんな猫の介と会う度に、俺は癒され、親友のように仲良くなっていった。言うまでもないが、猫の介と名付けている以上、彼はオスであり、それは確認済みだ。変な恋愛感情はなく、あくまでも絆を深める親友であった。

サバサバしていて、稀に尻尾を踏んでも、根に持たないで直ぐに忘れてくれる、竹を割ったような性格は俺には合っていてが、一つだけ不満があったのは、猫の介が毎度、俺の左足の足首を噛むことだった。おもいっきり噛むのではないが、なぜか同じ場所をいつも噛んできたのだ。こっちが構えている時はいいが、急に噛まれるとそれほど痛くはないのに、驚いてしまうので、それだけが嫌だったのだ。

猫の介が訪れるようになって1年半が過ぎたあたりだろうか、俺はその頃から、夜布団に入ると、足がもぞもぞとする様な感覚を覚えていた。

日増しにその感覚は強くなり、夜だけではなく、通勤中の電車の中で椅子に座っているだけで、足に違和感を覚えるようになっていた。初めは運動不足かと思って、帰宅してからストレッチをしたり、休みの日にウォーキングをしたりしていたが、その効果が表れることはなかった。

俺はとうとう、その違和感に我慢ができなくなり、病院に行くことを決めた。しかし、整形外科に行きレントゲンを撮るなど、診察をしてもらったが、骨などには異常が見られないとの結果だった。それでも、自分でもその違和感は何かあると不審に思っていたため、ネットなどで調べるようになっていた。その後、症状を調べていくうちに、もしかしたら血管に異常があるのではないかと疑い、専門病院へ診察してもらいに行く事になった。

そして、俺には下肢静脈瘤があることが分かった。医師の話によると、命に係わることではないが、放っておくと、症状が慢性的に起こり、生活の質を落とすという事だった。

俺はそんな事になっているとは知らず、その診断結果も驚いたが、それ以上に驚いたのは、下肢静脈瘤が出来ている箇所が、ちょうど猫の介が以前から噛みついてきた箇所だったことだ。偶然なのだろうか。いや、でも、毎度のように猫の介は同じところだけを嚙みついてきた…。

俺は、きっと猫の介が病気の事を知らせようとしてくれていた。いや、もっと言えば、猫の介は俺の下肢静脈瘤を治そうとしてくれていたのかもしれない!そう思うと、何だか猫の介との友情はさらに深くなり、その感慨は深くなるばかりでであった。

その後、俺の下肢静脈瘤は治療によって良くなった。猫の介にも恩返しをしないといけないと思っていた。

しかし、猫の介は俺が病院で診断されたその日から、俺の家に訪ねてくることはなくなった。しばらくは、タイミングが悪いのかなと思っている程度で、時々、ベランダに出ては、屈んで猫の介が潜っている隙間を覗いたり、ベランダの外に上半身を乗り出して覗いていたりしたが、彼の姿を見る事はなかった。

あれ程、頻繁に訪れていた猫の介が来ないというのは、どうもおかしいと思い、俺は猫の介の飼い主の家へ行くことを決めた。近所のペットショップで猫の餌を購入し、それを手見上げに、

「私も猫が好きなんですよ…時々、見かけるので…」

とでも言えば、彼の近況も分かるだろうと考えてのことだった。というのも、猫の介とは1年半もの接点があったが、その飼い主とは挨拶程度で猫の介の話題に触れることはなかった。

餌を勝手にあげているのも飼い主はどう思うかも分からなかったし、独身の男が猫と遊んでいるというのも飼い主からしたら気味が悪いと思うかもしれなと考えていたからだ。しかも、飼い主は独身の女性であり、変な下心があると勘ぐられるのも御免だと思っていた。俺はただ、猫の介との関係が楽しかったのだ。

飼い主の玄関の前に着くと、俺はチャイムを鳴らした。手には少々高級な猫の餌を持っている。準備は万全だった。インターホンから飼い主の声がした。俺は名前を名乗り、同じフロアに住んでいる者であることを告げた。

「ちょっとお待ちください」

という声がすると、すぐに飼い主は玄関の扉を開いてくれた。予定通り、俺は事前に決めていた話をして、猫の餌を渡した。すると、飼い主は猫の介が車に引かれて亡くなったことを教えてくれた…。俺は思わず驚いて、え!という声を出してしまった。その事実を瞬時には受け止めきれず、しばし呆然としたが、そんな俺のリアクションに飼い主も悲しみを思い出してしまったのか、目に涙を浮かべた。

「そうだったんですか…すみません…思いださせてしまって…」

そう伝えることが精一杯だった。どう考えても、飼い主の方がつらいに決まっている。だが、その飼い主に励ます言葉も伝えるべき言葉も思い浮かばず、俺は、一度は差し出した、猫の介への餌をひっこめると、呆然と自宅に帰った。

分かったことは、猫の介は車に引かれ亡くなり、二度と会えないということだけだ。いつ、どこで、どんな状況で車に引かれたのかは知るすべもなかった。その後に、どこで火葬され埋められたのかも分からない。

俺は、自宅のソファーに座り込むと、天井を見つめながら、猫の介との思い出を振り返っていた。
偶然、ベランダではなく、自宅の付近で見かけた時は、

「猫の介―!」

と呼びかけると、彼は遠くから走ってきて、俺の足元にまとわりつくこともあった。あれほど、嬉しそうに急いで走ってきてくれる友達がどこにいるだろうか。猫にとって大切な尻尾を踏んでも、決してやり返すような事もなく、すぐに許してくれる友達がどこにいるだろうか。俺が差し出した餌を残すことなく平らげ、満足げに帰っていく友達がどこにいるだろうか。

そんな事に思いを寄せているうちに、猫の介との最後に会った日の事を思い出していた。あれは、俺が病院に行く、その日の事だった。

病院へ行くため、有給休暇を取っていた俺は、午前中の診察ということもあって、慌ただしい朝を迎えていた。その日は、いつもは俺がいない時間なのに、猫の介がやってきていたので、俺は準備仕度をし、彼を部屋の中でほったらかしにしていた。今思えば、いつもと違う猫の介だった。

いつもはその日の気分でお気に入りの場所に座り込むのがパターンだったが、その日は、部屋中のあちこちを隈なく回っていたのだ。きっと、猫の介は俺の病気を当てたように、自らの死期も予感していたのかもしれない。猫の介にとっては、あれが最後の挨拶だったのだ。

今までの俺との思い出を振り返るように、俺との絆を確かめるように、俺との別れを惜しむように、部屋中を回っていたのかもしれない。

俺はそんな事を感じながら、ぼやける天井を眺めていた。

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