「毎日うそをついていた。どんなうそをついたかわからなくなり、人と話すことが怖くなった。うそまみれの生活だった」―。ギャンブル依存症について、当事者や支援者が体験を語り、依存症や自助グループ活動への理解を深める「ギャンブル等依存症問題啓発フォーラム2024」が6月22日、鹿児島市の志學館大学であった。当事者は自分自身と向き合いながら訴える。「いくら周囲が責めても、本人が反省や後悔をしても繰り返してしまうのは脳の問題。自分の意思でやめられない、病気なのです」
フォーラムは鹿児島市の依存症治療専門病院・森口病院が主催し、県内各地のサテライト会場とオンラインで連携。奄美群島では奄美市名瀬のAiAiひろばで約20人、知名町社会福祉協議会で5人が聴講した。
■負のループ
ギャンブル依存症の当事者として体験を語ったのは、東京都在住の会社員、宇都宮駿さん(34)。父親も同じ依存症だった。10代でパチンコをはじめ、スロット、ネット競馬などギャンブルにつぎ込んだ金は3千万円以上。借金総額は600万円以上に上った。ギャンブルに興じ、金銭問題で苦悩し、うそを重ね家族に謝罪し借金を肩代わりしてもらう。「結婚や子育てを機に、いつかギャンブルをやめないといけない時が来る」。そう思いながらも抜け出せない状態が続いた。
「家族といてもうれしさや楽しさは感じられなかった。仕事中もあすの返済どうしよう、今すぐギャンブルで稼がなくては。その時間をどう捻出しよう…そればかり考えていた」。妻名義のクレジットカードや出産祝い金を使い込み、家庭内窃盗を重ねた。結婚指輪も10回以上質屋へ入れた。家庭内の居場所も失った。
■妻の共依存
駿さんの妻、宇都宮美貴さん(33)も家族として自身の体験を語った。駿さんとは職場結婚。親しみやすくコミュニケーション能力も高い、頼れる上司だと感じていた。借金を打ち明けられたのは、結婚指輪を買いに行く約束をした日。「私が夫をなんとか正さなくては」と奮い立った。駿さんに説教し、所持金を厳しく制限し、スマートフォンで居場所や行動を監視した。「また借金ですよ!」と義父母にも詰め寄った。常に駿さんのことを考えていた。だが「今度こそ変わるはず」という期待は、かなうことなく絶望へと変わっていった。
「新しい借金が発覚すると鼓動が早くなり、頭の中に不安が一気に押し寄せた。やれることを尽くしたのに、なぜ。夫への恨みで暴走機関車のようになり、夫をののしった。つらい、苦しい。一瞬でもこの現実から逃れたい。酒に酔い、包丁を手に夫に詰め寄った。めった刺しのソファを見て、自分のしたことが心底恐ろしくなった」
駿さんの問題を自分自身の問題と思い込み、駿さんが解決すべき問題を手助けすることで自分の存在価値を見いだそうとする、「共依存」に陥っていた。
■依存症は「家族の病」
転機となったのは、美貴さんがギャンブル依存症を抱える人同士が意見交換を行う自助グループ「GA(ギャンブラーズ・アノニマス)」の家族会「ギャマノン」への参加。壮絶に思えた自分たちの出来事も経験者たちには「よくあること」だった。「同じ悩みを抱えた人がどうやって乗り越えたのか、希望が見えた」
会を通じ回復プログラムを開始。そこで美貴さんは初めて自分がアダルトチルドレン(AC・虐待や育児放棄、依存症など機能不全家族の親の元で育ち、社会に出てからも生きづらさを感じている人)であることに気が付いた。〝理想の親〟だと思っていた母はギャンブル依存症の祖父に育てられたACであり、父もアルコールの問題を抱えていた。「問題は夫ではなく自分の内側にあった。家族も依存症を正しく理解し、共に回復することが必要。依存症は『家族の病』です」
南海日日新聞(2024年7月6日)
パチンコのことで悩んだらギャンブル依存症相談機関へ
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