「ギャンブル依存症」の理解を深める啓発記事 AERA 2024年4月15日号

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水原一平氏も苦しむ「ギャンブル依存症」の啓発の必要性 いま危険なのはオンラインカジノ

大谷翔平選手の元通訳・水原一平氏の巨額窃盗疑惑。自らギャンブル依存症であると告白したという。治療はどうすれば良いのか。専門家に聞いた。AERA 2024年4月15日号より。

違法スポーツ賭博に手を染めて借金が雪だるま式に増えていったのが、今回の水原一平氏の一件だ。大谷翔平選手の銀行口座から違法スポーツ賭博の胴元の関係者に、2回に分けて計100万ドル(1億5千万円)の送金があった記録が確認されたという。

 水原氏の行動は典型的なギャンブル依存症だと話すのは「ギャンブル依存症問題を考える会」の代表で、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所研究生の田中紀子氏だ。田中氏は自らがギャンブル依存症の回復者でもある。

「ギャンブル依存症になると、思い付きでその場しのぎの嘘を重ねます。水原さんは最初、大谷選手が納得して友人の借金を肩代わりしたと話し、次に自分の借金に変わり、翌日には嘘をついたと話の内容が変遷しています。依存症の人はすぐにばれる嘘だと分かっていても理性的な判断ができず、ギャンブルを続けるためなら辻褄が合わないことでも言ってしまう。多くのギャンブル依存症の人に接してきた経験から、典型的な症状だとよくわかります」

 嘘をつけば周囲に迷惑をかけてしまうことになるが、意思の力で止めるのは難しい。

「本人は嘘をついてギャンブルを続けることで胸が痛いし、周囲の人たちを傷つけたくないと思っている。それでもとっさに嘘が出てしまうのがこの病気の特徴です。風邪を引いた人が大事な人にうつしたくないけど、セキが出るのを止められないのと同じ。理性が利かないから病気なのです。水原さんがいくらもうギャンブルをやらないと言っても、きちんとした治療をしない限りは治りません」

■脳内の快楽物質が放出 自助グループで変わった

 ギャンブル依存症になったとき、体の中では何が起きているのか。この病気に詳しい昭和大学付属烏山病院の常岡俊昭医師は、脳内の快楽物質が調整できなくなっていると話す。

「脳の中には報酬系と呼ばれる快楽を感じさせる回路があり、楽しさを感じるとドーパミンが放出されます。本来ならいろいろな楽しいものに出るのですが、依存症になるとうまく調整ができなくなり、依存対象にだけ敏感に働くようになる。その対象がギャンブルなら賭け事をやめられなくなります。なぜそうなるのか原因ははっきりしませんが、抱えているストレスがギャンブルで忘れられた経験をすると、ギャンブルにはまっていく傾向にあります」

 ギャンブル依存症の患者は男性が9割を占め、対象は競馬などの公営ギャンブル、パチンコやスロット、FX(外国為替証拠金取引)、オンラインカジノなど多様だ。子どものころに賭け事をする人が身近にいる環境で育った場合も、ギャンブル依存症になりやすいことが分かっている。

 神奈川県在住のAさん(57)も、ギャンブル依存症に苦しんだ経験を持つ一人だ。

 Aさんは高校生のとき、受験から逃避するためにパチンコを始めた。大学病院の事務職に就職すると、今度は競馬にはまるようになる。生活費や家賃にも手を付けていた。「そんな賭け方をしてはいけない」と注意してくれる先輩の忠告にも耳を貸さなかった。

「こんなことをしていたらダメだ」と思いながらも、同じことを繰り返す。手を出した消費者金融の借金が返せない状態に追い込まれたとき、仕事で集金したカネに手を付けるようになった。繰り返すうちに、横領額は1300万円にまで膨れ上がった。1年半後に発覚して仕事を首になった。別の病院に再就職して心機一転を誓うが、再びパチンコと競馬通いが始まる。職場のキャッシュカードを無断で持ち出し、3度金を引き出した。盗みが発覚して逮捕。裁判では懲役1年6カ月、執行猶予3年の判決を受けた。

 判決後、ギャンブル依存症の自助グループに通い始めたことで、現在まで22年間ギャンブルをやめ続けることができている。Aさんは自助グループの役割をこう話す。

「依存症の人たちが集まり、それぞれの体験を話し合うことで気づきを見つけることができる。ほかの人の体験談を聞き始めたころは正直『変な考えだな』と思っていたのですが、あるとき『このおかしな考えは自分と同じだ』と気づきました。自分が変わり始めたのはそれからです」

 Aさんは現在もギャンブル依存症の自助グループ「ギャンブラーズ・アノニマス」に通い続ける一方、回復者として再就職を果たすことができた。現在、数百人の部下を持つ立場にいる。

■IR計画の前に啓発が必要 若い世代がオンラインで

 ギャンブル依存症の治療はどうすれば良いのか。国立病院機構久里浜医療センターの松崎尊信医師は、患者が個別や集団で議論をする「認知行動療法」を実施すると話す。

「ギャンブル依存症の人は、『ずっと賭けていれば必ず勝てる』『こうすれば勝てる』などといった特有の考え・思考が強固に沁みついています。この考え・思考を切り替えるためにテーマに沿ってスタッフと個別に、あるいは集団で議論しながら自身の行動や考えを振り返るのです。例えばギャンブルのメリットとデメリットを考えてみてデメリットの方が大きいことに気づけると、ギャンブルをやめる動機づけにつながります」

 だが、長年の間に沁みついた考え・思考の修正は簡単にはできない。治療を続けないとギャンブルを再開する率も高まる。依存症に特効薬はないと言われるゆえんだ。

「ギャンブルの記憶や行動をゼロにすることは難しく、仮に10年間やめていたとしても再開の可能性を完全になくすことはできません。しかし、継続的な通院や、全国にあるギャンブル依存症の自助グループに参加しながら自身のギャンブル問題を意識し続けることで、依存症から回復していくことは十分に可能なのです」

 日本にはギャンブル依存症が疑われる人が約300万人いるとされる。大阪では2030年開業をメドに、カジノを含むIRの計画が進む。常岡氏はこれ以上の患者を出さないため、ギャンブルには依存症になるリスクがあることを啓発する必要性を訴える。

「ギャンブル依存症で診察に来る人たちは、ギャンブルにはまる病気があることを知らなかったと言います。知らなければ、病気になったことを責められません。ギャンブルには依存症のリスクがあると義務教育で教え、公営ギャンブルにもきちんとリスクを表示すべきです」

 とくにいま危険なのは、若い世代を中心に増えているオンラインカジノだ。国内から接続して賭博を行うことは犯罪だが、十分に知られていない。そのため、スマートフォンから気軽に海外のオンラインカジノへ賭けてしまい、依存症になる人が急速に増えている。

「24時間賭けられるうえ、現金も必要ないため現実感が薄い。年収の何倍もの借金をして一気に破綻するケースが多く、診察に来る患者も増えています。自分が危ないと思ったら隠さず、すぐ専門の病院や自助グループに来てほしい。そうすれば被害も少なく済み、治療も楽なのです」

(ライター・形山昌由)

AERA 2024年4月15日号より抜粋

ギャンブル依存症は「否認病気」「孤独の病気」ともいわれていますので、自覚するのに時間がかかります。不安を感じたらギャンブル依存症相談機関へ

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