パチンコ屋で出会った人から聞いた深イイ話【三色弁当を食べるスロパチ生活者】

https://ganbulingaddiction.com/2021/09/15/another-story/依存症体験記

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小学生の頃、遠足に行くと友達のお弁当が「そぼろ、たまご、デンプン」の三色弁当だったのが美味しそうに見えて、それから母親にお弁当は三食弁当にしてほしいと注文するようになった。

子供からお弁当の中身を注文されると、おかずの内容を考える手間が省けるのか、母親は嬉しそうにその注文を毎回快く承諾してくれた。

うちの家は自営業をしていて、母親も父親の仕事を手伝って忙しくしていたので、そんな些細な手間が省けることも嬉しかったのかもしれない。だからといって、お弁当に手を抜くような母親ではなく、三色弁当の横には毎回違うおかずが一品付けてくれるような母親だった。

私も飽きることなく、遠足に行ってはその三色弁当を楽しみにして食べていた。クラスの友達たちとブルーシートに座り、お互いのお弁当を横目で見ながら、それぞれ違うおかずで羨ましがったり、子供ながらに自分のおかずの方が旨そうだと思ったり、そんな事が遠足の楽しみの一つだった。

ある時のことだった。遠足に行くと、友達の一人がお弁当を忘れるという事件が起きた。初めはリュックの中を何度も確認している仕草をしていたが、次第に、家を出る前にリュックにお弁当を入れ忘れた事に気付いたのだろう。半べそをかき、落ち込んだ様子で俺たちが座っている場所にまでやってきた。

「お弁当…忘れた…」

と涙ぐむ友達の姿がとても痛々しく見えた。

皆もどうしていいのかも分からなければ、どう言っていいのかも分からず、口を開くものはいなかった。遠足で長距離を歩き、体力的にもしんどく腹が減っていたというのもあるのかもしれない。あるいは、自分のお弁当を分けるのは先生に怒られるかもしれないという気持ちもあったのかもしれない。いずれにしても、自分たちのお弁当から少しずつ友達に分けるという行為はせず、俺たちは、

「先生に言った方がいいよ…」

というのが精一杯だった。

その友達は、先生の所に行くとお弁当を忘れたことを伝え、いくつかやり取りをすると、先生が座るブルーシートの横に座り、お弁当を分けてもらっていた。その光景を見ると、俺たちもその事が解決したと安心して、いつものように冗談を飛ばしあったり、横目で友達のおかずの内容を確認したりして楽しんでいた。

俺は自宅に帰ると、母親に遠足での出来事を一部始終話した。そして、友達がお弁当を忘れた事件の話も付けくわえた。いつもは微笑んで俺の話を聞いている母親であったが、友達がお弁当を忘れた話になると、眉間にしわを寄せ険しい表情に変わった。

「あなたは、お友達にお弁当を分けてあげたの?」

その口調は当然そうしたのよね?という確認の意味が込められた強い口調だった。

俺は、少し黙った後、

「誰もあげなかったよ…。先生がお弁当を分けていたよ…」

と言った。

「他のお友達がどうかじゃない。あなたはお弁当を分けてあげなかったの!?」

俺の言葉が言い訳に聴こえたからのか、母親は厳しい口調で俺に問い詰めた。

「うん…」

そう俺が答えると同時に母親はまたも厳しい口調で言った。

「あなたは友達の痛みが分からないの!?何でお弁当を分けてあげないの!?」

母の言葉は胸に突き刺さるものがあり、俺はうなだれて返す言葉がなかった。黙って遠足で持って行ったリュクからお弁当の空箱やブルーシートを取り出し片づけるしかなかった。

その出来事から1年も経たなかった頃、我が家で大きな出来事が起きた。

父親の会社が倒産したのだ。父親の仕事は順調にいっていたようだが、知り合いの連帯保証人になった事で多額の借金を背負ってしまい、その影響で会社を倒産させることになったようだった。

少し前から、子供ながらに両親の様子がおかしいとは感じていた。以前より二人して忙しく働いていた様子だったし、深夜に二人で深刻に何かを話し合っている姿も見ていた。

それからのうちの生活は大きく変わった。自宅は売却し、近くのアパートに引っ越し、父親が所有していた2台の車もなくなった。父親がすぐに知り合いの会社に就職し、俺と顔を合わせる機会がないほど、朝から晩まで働き、母親もいくつかのパートを始め、同じように忙しく働いていた。

俺もその環境の変化からか、以前より何に対しても消極的になり、自分の気持ちを積極的に表現することはなくなっていた。

そして、俺の中で一番大きく変わったと思ったことは、遠足に持っていく「いつもの三色弁当」がなくなった事だった。うちの家計が大変な事になっていることも分かっていたし、母親が朝早くから働きに出ることも知っていた。だから、仕方がないことだとは思っていたが、その遠足での楽しみが変わったことは、俺にとって大きな衝撃だったのだ。そんな、俺が落ち込む姿を悟ってか、母親は、

「元気だしなさい!おにぎりにお母さんの元気を込めたわよ!」

と明るく、いつものように力強い声で言った。

それでも、いざ遠足に行き、少ないおかずとおにぎりを食べていると、友達にいつか「あれ?三色弁当じゃないの?」と聞かれるのではないかとビクビクしている自分がいたし、友達から横目でお弁当のおかずを見られているのではないかという不安な気持ちもあって、どこか悲しい気持ちを抱いていた。

ある時の遠足で、あの時と同じようにお弁当を忘れた友達が現れた。同級生だから、その友達もあの時の事件を見ているわけで十分気を付けていただろう。それでも急いでいたのか、リュックにお弁当を入れ忘れたようだった。焦った顔で何度もリュックの中を探している姿を見ると、俺は近くによって声をかけた。

「俺の分けてあげるよ…」

決して分けてあげられる程、多いおかずの量でもないし、おかずの内容も友達が喜んでくれるものでもなかったかもしれない。それでも、友達を俺の座っているシートの横に座ると、お弁当のフタに乗せたおかずを嬉しそうに食べていた。おにぎりも半分にして差し出すと、友達は、

「ありがとう…」

と言って涙を浮かべていた。

俺は母親から厳しく言われた教えを守っただけだったが、友達へのその行為によって、何か心が温まるような感情になり、お弁当を分けて良かったという気持ちになっていた。

遠足から戻り自宅に着くと、俺は誰も居ない自宅でリュックからお弁当の空箱とシートを取り出し、片付けを始めた。空箱は台所で洗い食器棚に戻し、シートもベランダで砂を落とし外に干した。そして、リュックの脇に入った遠足のしおりを出すと、俺はそれを眺めながら今日の出来事を振り返っていた。

夕方になり、いつもより早く母親が仕事から帰って来ると、母親から俺に遠足の様子を聞いてきた。

「今日の遠足どうだった?」

きっと、お弁当の事を気にしてくれていたのだろう。明るく励ましてくれていた母親だったが、内心は「不憫な思いをさせている」という心配の気持ちでいっぱいだったのかもしれない。俺は母親に遠足での出来事を話し、こう言った。

「今日、お弁当忘れた友達がいたよ…だから、俺はお弁当を分けてあげたよ」

すると、母親は、

「そうなの…お友達、可哀そうだったわね。」

と言い、俺がお弁当を分けた事よりも、友達がお弁当を忘れたことに気持ちを寄せている、そんな寂し気な表情を見せていた。俺は自分が取った行動をもっと喜んでもらえるものかと思ったが、母親の反応は想像していたのと違い、少し戸惑いを覚えた。

そして、小学校最後の遠足での出来事だった。その最後の遠足で俺はとうとう自分がお弁当を忘れるという失態を起こしてしまった。その日は寝坊をしてしまい、焦って自宅を出てしまいリュックに入れ忘れていたのだ。当事者になると、その落胆は大きく、その遠足すべてが台無しになるような気持ちの落ち込みだった。

「なんでこの日に限って…」

と普段から寝坊などしない俺がその日に限って寝坊してしまうという自分の弱さに嫌気が差して、リュックの中身を確認することを早々に諦めると、木陰で不貞腐れるように座っていた。

すると、遠くから俺の名前を呼びながら駆け寄ってくる友達がいた。リュックを背負い、片手にブルーシート、もう一つの手にお弁当を持って友達は俺の所へ走ってやってきた。

「お弁当…忘れたんだろ?俺のあげるよ。前に貰ったから…」

そう言って気遣ってくれる友達は、以前、遠足でお弁当忘れ、俺が半分のおにぎりをあげた友達だった。

友達は俺に声をかけ呼び寄せるのではなく、恥をかかせないように、わざわざこの場所まで荷物を持って移動してきてくれたのだ。俺はその気持ちだけで嬉しかった。

友達はブルーシートを木陰に敷くと、一緒に座るように言ってくれ、俺が前にそうしたように、お弁当のフタにおかずを半分乗せて出しだしてくれた。ふりかけが掛かったご飯も半分くれて、そして箸を一本俺に渡すとこう言った。


「一本で食えるかな?」

俺は友達のその笑顔で笑った。涙が溢れるくらい笑った。

二本の箸をそれぞれ一本ずつ使い、ご飯を食べるのだから、これは食べづらいに決まっている。それでも、おかずの乗ったフタを口元に持っていき、一本の箸で駆け込ませるようにほおばっていると、いつになく美味しいご飯にも思えた。二人のその変わった光景が面白かったのか、遠くでお弁当を食べている友達も興味津々にこちらを見ていたが、友達と俺は、二人だけしか感じえない感情を共有しながら、二人して笑いあい、お弁当を平らげた。

「ありがとう…」

俺がそう言うと、友達は笑顔でうなずくだけだった。

遠足から戻ると、自宅のテーブルには俺が朝忘れたお弁当が置かれていた。その忘れられたお弁当を少し眺めてから気を取り直し、俺はいつものように遠足の片づけを一通り終わらせた。

そして、遠足のしおりを眺めながら、今日の出来事を振り返っていた。いつもと違うのは、その日はこれまで取っておいた過去の遠足のしおりを取り出し、一つ一つ目を通し、過去の思い出を振り返っていたことだ。

夕方になり、玄関の開く音がすると、俺は帰宅した母親にすかさず言った。

「お母さんの言う通りして良かったよ!」

依存症体験記
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