野球のメジャーリーグ、ドジャースに所属する大谷翔平選手の元通訳の違法賭博問題によって一躍、注目されたのがギャンブル等依存症です。
香川県内にもこの病気と疑われる人が推計で約1万4000人いると言われています。患者の証言などからギャンブル等依存症の現実に迫ります。
「もうやめよう」
10年間、毎日のように抱き続けた後悔の念。それでも、やめられませんでした。
(山本道夫さん<仮名>)
「内心やばいかなと思いながら、でも次の日は、借金返そうと金の事ばかり頭は行っていた。それしか選択肢がなかった」高松市に住む山本道夫さん<仮名>。ギャンブル等依存症の患者です。高校を卒業後、会社員として働き始めた山本さん。パチンコや競艇などのギャンブルは、やっていましたが給料の範囲内で楽しむ程度でした。
状況が変わり始めたのは、23歳の時でした。
山本さんは、当時交際していた女性と結婚。子供もできたことで生活費が増え、自分が自由に使える金が少なくなってきたのがきっかけでした。
(山本道夫さん<仮名>)
「自分の手元にはしっかり持っておきたいタイプだったので、どうにか増やそうイコールギャンブルだった」ちょうどその頃、携帯電話を使って手軽に賭けられるようになったこともあり、山本さんは、ギャンブルに一気にのめりこみます。複数の消費者金融からの借入や友人からの借金、さらには、借金の肩代わりをしてくれた両親に嘘をついて金をもらいギャンブルの軍資金にもしました。
30歳の時には借金がばれるなどして離婚。それでもギャンブルはやめられず、多い時には、200万円をつぎ込んだ日もあったといいます。
(山本道夫さん<仮名>)
「1レース5万円負けても、次10万円とればよい。10万負けたら次20万とればいい。ギャンブルをしたいというより軍資金を用意しないと、という、もう金、金。頭の中をどう作るかどう増やすかみたいなそこしかなかった」最終的には、勤務していた会社で横領し、ギャンブルの軍資金を調達するまでになっていました。
(山本道夫さん<仮名>)
「そこしか金を段取りする選択肢がなかったと自分で思い込んでいた。もし見つかったら首になるとかよりばれなかったら大丈夫その時点で正気じゃなかった」2023年、この行為がばれて会社を解雇された山本さん。収入が断たれたことでいわゆる「底つき」の状態を迎えることになります。
(山本道夫さん<仮名>)
「俺の人生終わったなというところで、自分自身の中で人生を放棄したいみたいなところは強かった」異変に気付いた看護師の姉のすすめで病院を受診し、入院。病名は、ギャンブル等依存症。借金の総額は、約2000万円に達していました。
高松市の三光病院。県内で唯一のギャンブル等依存症の専門医療機関です。海野院長は、この病気の怖さを次のように指摘します。
(三光病院 海野順院長)
「明らかに問題が起きているにも関わらず本人はやるしかない、どうにかして取り返さないといけない、ギャンブルの借金はギャンブルで返さないといけないと信じきっている現実がみられるようになってやっと回復が始まる。そこにたどり着くまでが大変な病気」ギャンブル等依存症は、脳の病気で、ギャンブルが生活に不可欠になっている、かつ生活に支障が出ている状態の人が当てはまると言われています。脳は、一度感じた快楽は忘れないため、回復には二度とギャンブルに手を出さないことが必要なのです。
山本さんは、週に2回、同じ病気の人たちで作る自助グループの会に参加しています。
「(入院して)今の自分がベッドに横になっていても何も変わらないじゃないかと正直なところあって、誰ともしゃべらない感じ」
自暴自棄になりかけていた山本さんを支えたのが両親や離婚した妻、子供の存在でした。
「兄弟・親戚含めてみんながどうにか自分のために、と協力してくれたりがあって今の自分があるとしみじみ思う」
自助グループの会では、自らの体験を話したり、人の体験を聞くことで孤独になることを防ぎ、ギャンブルのない生活への回復を目指します。
(参加者)
「アルコールやギャンブルで欲求の赴くまま行動を起こしていた。本当に自分がない状態に陥っていた」
「家族にも約束を破り、破り、破り、破り、破って、信用を無くして今入院している」
(山本さん)
「自分が高校を卒業してから今に至るまでの積み上げてきたものを自分で壊してしまったのが一番大きい」ギャンブル等依存症に特効薬はありません。回復には、ギャンブルをしない生活を一日一日、積み重ねていくしかないのです。
現在、山本さんは、失業保険で暮らしていて、近く自己破産を申請する予定です。
(山本道夫さん<仮名>)
「(Q:わびしくない?)自分が依存症になっていなくて家族の中にいたら職場で食事という中で昔は弁当も作ってくれていたので」今後は、徐々に社会復帰を目指すことにしています。
香川県内でギャンブル等依存症が疑われる人の推計は、約1万4000人。一方で、2022年度、この病気で病院を受診した患者は、わずか82人。海野院長は、体への異変などがないだけに知らずに発症している恐れがあると警告します。
(三光病院 海野順院長)
「病気と気づいていないケースが多い。家族が相談先を探している時にギャンブル等依存症を知って病院にくる。ギャンブル問題で何かが起きたらまず病院に相談に来てもらうのが大事」家族・友人・会社などギャンブルが原因で多くのものを裏切ってきた山本さん、今、思うのは、これまでの後悔とこれからの自分です。
(山本道夫さん<仮名>)
「過去、信頼を失ったところに関しては何年かかるかはわからないが、償いというか自分自身なかったことにはできないことなので。ギャンブル依存症といわれたが今はこういう仕事をしていると言えたら一つの罪滅ぼしというか、けじめなのかなと思う」ギャンブルについて少しでも悩みや不安がある人は、行政の依存症の相談窓口や医療機関、自助グループなどに早めに相談してください。
岡山放送(2024年6月20日)
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