現代ビジネスの『ギャンブル依存症から抜け出す』全8回まとめ 

https://ganbulingaddiction.com/2024/07/28/information-1144/ギャンブル依存症情報

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ギャンブル依存症から抜け出す 全8回

ギャンブルに夢中になる人は大勢います。生活に重大な問題が起きているにもかかわらず、勝利や賞金を深追いし、嘘や借金が常態化してしまっている人もいます。「ギャンブル依存症」です。かつてはそういう人の問題を、本人の意志の弱さから起きることだと考えるのがふつうでした。しかし近年は、病気だと考えることが一般的になっています。脳の報酬系に異常が起きていて、本人の意志の力だけではやめられない状態になっているのです。

こういう場合は、医療機関を受診したほうがよいでしょう。そして、カウンセリングや認知行動療法などの治療を受けるようにしましょう。そうすれば、本人の行動パターンや考え方が変わり、脳も異常な状態から回復していきます。

この連載では、『ギャンブル依存症から抜け出す本』(樋口進監修、講談社刊)から、依存症の特徴から治療法、生活上の注意までを、全8回にわたって解説します。依存症に悩む本人や家族が悪循環から抜け出すためのヒントを見つけてください。

樋口 進(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター名誉院長・顧問・精神科医)

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ギャンブル依存症から抜け出す 第1回

依存の原因となるギャンブルにはどんなものがある?

そもそもギャンブルとは何でしょうか?

「ギャンブル」を日本語で賭博や博打といいます。日本には賭博に関して法的な規定があり、違法賭博と合法な公営ギャンブルなどがそれぞれ厳密に定められています。

しかしここでは、「あるものを賭けて、ほかのものを手に入れる行為」として、法的にギャンブルとされる行為だけでなく、遊技などもギャンブルに類するものとしてもう少し幅広くとらえています。医療の現場ではそれらも依存症の要因となっているからです。

●公営競技

特別法によって規定され、中央官庁の管轄で運営されている競技。公営ギャンブルともいう。売り上げの一部を国や地方自治体に還元している。競輪、競馬、競艇、オートレース。

●投機

株式や商品、通貨などの価格変動から利益を得ようとすること。株式取引、FX。

●遊技

麻雀やパチンコ、スロット、テレビゲームなどは、法的には遊技に該当する。

●オンラインギャンブル

インターネットを通じて「ギャンブル等」をすること。馬券を購入するなど。

●宝くじなど

宝くじやロトなどの「くじ」や、試合の勝敗で当選が決まる「スポーツ振興くじ」。

●ゲームのガチャ

ゲーム上で、抽選でアイテムなどが手に入るしくみ。課金できる場合が多い。

※ゲームのガチャをギャンブルに含めるかどうかは、議論がありますが、参考情報として掲載しています。

●そのほか

今後はカジノの運営がはじまる。そのための依存症対策が検討されている。

ギャンブル好きと「ギャンブル依存症」の違いとは?

趣味でギャンブルをする人と、「ギャンブル依存症」の人には、どのような違いがあるのでしょうか。最大のポイントは「コントロール」にあります。

依存症は、自分をおさえられなくなる病気です。依存症の人は、ギャンブルへの情熱や衝動をおさえられません。そしてその気持ちは、日増しに強くなっていきます。ギャンブルを続けるうちに、脳が刺激に慣れてしまい、もっと賭けたい、もっと多くのお金がほしいと考えるようになります。

そして賭け方や賭け金がエスカレートしていき、借金などの問題が起きて、生活が破綻するのです。

ギャンブル依存症かどうかチェックしてみよう

通常のギャンブル好きとは異なる、「ギャンブル依存症」に特徴的な行動を紹介します。依存症だと感じている本人やその家族、関係者は、当てはまるところに印をつけてみてください。

【ギャンブル依存症チェック】

●ギャンブルをしているとき

依存症の人は、パチンコや競馬などのギャンブルをしているとき、負けていても勝っていても冷静になれず、思っていた以上に賭け続けてしまうことがよくあります。

□負けた分をとり返すまで、賭け続ける

□負けたのに「勝っている」と嘘をつく

□勝ち出すと「もっと勝てる」と考えて勢いづく

□当初の予定よりも多くの金額を使ってしまう

●ギャンブルをしていないとき

日常生活では、ギャンブルのために「仕事を休む」「お金を借りる」といった問題が生じます。また、本人がその問題を自覚しながら、それでもギャンブルをやめられないという苦悩もみられます。

□ギャンブルのために学校や会社を休むことがある

□「このままではいけない」という意識がある

□「やめよう」と決心して家族と約束をしても、やめられない

□ギャンブルをめぐって、家族と口論になる

□景品や馬券など、ギャンブルの証拠を隠す

□ギャンブルのために借金をする

□家族のお金を無断で使ったことがある

□ギャンブルのために万引きなどの違法行為をしたことがある

□嫌な気分になると、ギャンブルをしたくなる

【判定】

チェックの数はいくつになりましたか?

●0~1個

依存症の疑いはあまり考えられません。しかし、ギャンブル関連で問題や心配事があれば、早めに医療機関に相談しましょう。

●2~6個

ギャンブル依存症の可能性があります。深刻な問題が起こる前に、医療機関の受診を検討しましょう。

●7個以上

特徴の半分以上が当てはまったことになります。ギャンブル依存症の可能性が高いといえるでしょう。医療機関を受診してください。

樋口 進(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター名誉院長・顧問・精神科医)

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ギャンブル依存症から抜け出す 第2回

負けず嫌いで仕事のできるタイプはリスクが高い:interrobang:

まず、ギャンブル依存症になりやすいのはどんな人なのかをみてみましょう。

さまざまな研究から、ギャンブル依存症の患者さんに共通する傾向や、発症のリスクを高める要因が、ある程度わかっています。あくまでも傾向ですが、女性よりも男性が発症しやすいといえます。また、負けず嫌いで「自分なら勝てる」と考えるタイプの人は危険です。仕事のできるタイプの人ともいえそうです。

リスク要因として注意しなければいけないのが、ほかの病気、とくにギャンブル以外の依存症の存在です。アルコール依存症やタバコへの依存がある人は、ギャンブル依存症を発症しやすいと考えられています。お酒やタバコをたしなむ習慣があり、ギャンブルを趣味にしているという場合、依存症のリスクが高く、注意が必要です。

【ギャンブル依存症になりやすい人】

年齢

患者の中心は40代だが、若いうちに発症するケースが多い

性別

男女比は男性が9割以上と圧倒的に多い

持病

アルコール依存症やニコチン依存、うつ病などの心の病気がリスクに

性格

負けず嫌い、落ち着きがない、強迫的などの傾向がある人が発症しやすい

行動

衝動性が高い、刺激を求めやすい、反社会的な行動をするといった行動的な特徴がある

環境

時間やお金の調整がしやすく、いつでもギャンブルができる環境が危ない

ギャンブル依存症の人の脳には異常が起きている

ギャンブル好きとは異なり、ギャンブル依存症は基本的には脳の病気です。ギャンブルを繰り返すうちに脳機能に異常が起こり、自分ではギャンブルをやめられなくなってしまったのが、依存症という状態です。

依存症の人の脳では、ギャンブルへの欲求が敏感になり強くなっていますが、いっぽうで、ギャンブルで勝ったときの快感は感じにくくなっています。ギャンブルをやりたい気持ちは強い。でも、いくらやっても満足できない。依存症の人の脳は、そういう状態になっています。ですから際限なく、ギャンブルを繰り返してしまうのです。

本人の気持ちや性格、習慣の問題ではなく、ギャンブルによって起こる脳の異常として、考えていきましょう。

【依存症の人の脳はどうなっている?】

前頭前野の機能低下

依存症が続くと、意思決定などに関わる前頭前野の機能が低下。また、前頭前野など脳の一部がギャンブルにだけ敏感に反応し、ほかの趣味や娯楽には反応しにくくなる

「報酬系」の異常

側坐核などからなる「報酬系」では、快感を得るとドーパミンが放出される。しかし依存症の人にはこの報酬系に異常が起こり、ギャンブルをしても十分な快感が得られなくなる

本人の根性や家族の愛情では対処できない

依存症の人は、たび重なるギャンブル体験によって、脳機能の異常にみまわれ、その人本来の判断力を失っています。家族が愛情深く接しても、本人がそう簡単には元通りにならないのは、そのためです。本人が家族の気持ちに応え、立ち直ろうとしても、脳機能の異常があり、意志の力だけでは自分をコントロールできないのです。

脳機能の異常を改善し、その人本来の力をとり戻すためには、治療が必要です。適切な治療を受け、ギャンブルをやめることができれば、ギャンブルから刺激を受けることもなくなり、脳機能や心理の状態は徐々に戻っていきます。治療を受け、回復をめざしましょう。

【勝敗も脳機能や心理に関係する】

ギャンブルでは、負けても「おしい」「勝てそうだった」と感じることがあります。そのような刺激も脳機能に影響を与え、心理の状態を以下のように変えるといわれています。

おしい負け方

おしい負け方を繰り返していると、「こうすれば次は勝てる」「自分は学んだ」といった妄想的・錯覚的な思考に陥る

勝ったようなムード

スロットでリーチがかかり特別な映像が流れるなど、まるで勝ったようなムードになると、興奮して冷静な判断ができなくなる

抵抗感が薄れる

ギャンブルへの抵抗感が薄くなり、手を出しやすくなる

衝動性が強くなる

衝動的な言動が多くなる。深く考えずにギャンブルをするようになる

判断力が低下する

冷静な判断ができなくなり、損をしそうな状況でも続けてしまう

脳機能の異常を改善し、その人本来の力を取り戻すには、治療が必要です。適切な治療を受け、ギャンブルをやめられれば、ギャンブルから刺激を受けることもなくなり、脳機能や心理の状態は徐々に戻っていきます。

樋口 進(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター名誉院長・顧問・精神科医)

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ギャンブル依存症から抜け出す 第3回

負けたら勝つまで勝負をしようと深追いをしてしまう

依存症の人は、一定の時間や金額でギャンブルを切り上げることが、なかなかできません。ギャンブルでは損をすることのほうが多いわけですが、依存症の人には、負けても負けても、勝つまで勝負を続け、負けをとり返そうとする傾向があります。「深追い」をしてしまうのです。

ギャンブルの負けをギャンブルでとり戻すのは、まず不可能でしょう。しかし依存症の人は、本当に勝てると思っています。冷静な判断ができなくなっているのです。

また、運よく勝ったときにも、「もう少し勝てる」と考え、勝負を続けてしまい、結局負けはじめるということがあります。結果として、負けているときも勝っているときも、やめるタイミングがつかめず、延々と賭け続けてしまうのです。

ギャンブルを続けるために嘘をついたり隠し事をしたりする

ギャンブル依存症の人は多くの場合、家族など身近な人に、ギャンブルのことを隠します。ギャンブルにのめりこむのは問題だと、本人もわかっています。わかっているから、隠そうとするのです。また、隠し通せているうちは、ギャンブルを続けることができるという意識もあります。

家族やまわりの人は、本人が嘘をついてでもギャンブルを続けようとする姿をみると、失望するかもしれません。しかし、これは病気の症状のひとつです。病気を治療すれば解消します。本人が人として変わってしまったわけではないのだと、理解してください。

賭け金が増えて借金をくり返すようになる

依存症になると、賭け方が過激になっていきます。最初は一日数千円でも楽しめていたことに興奮できなくなり、数万円、数十万円を使うようになっていくのです。これは、脳がギャンブルの刺激に慣れ、より強い刺激を求めるためです。

やがて資金が不足し、借金をします。借金も最初は少額ですが、そのうち数十万円単位が当たり前のようになっていきます。本人は、借金を清算するためにはギャンブルに勝つしかないと考えています。それ以外の手段は考えられなくなっていて、そのため、借金の額がさらに増えていくのです。

その頃にはもはや本人に返済能力がないため、家族などが肩代わりをします。しかし依存症という根本的な問題が解決していなければ、借金はいずれまた繰り返されてしまいます。

何度誓っても賭け事がやめられないAさんのケース

Aさんがギャンブルをはじめたのは大学時代です。先輩に誘われてパチンコ店へ行き、ビギナーズラックで数万円を獲得。それ以来、パチンコを趣味にしてきました。

1)若い頃はお金がなく、パチンコをするのは月に数回でした。しかし30代になって金銭的に余裕ができると、毎日のようにパチンコ店へ通うようになりました。パチンコだけでなく、パチスロにもはまっていました。

2)やがてパチンコ・パチスロに使う金額が増え、自分の小遣いだけではギャンブル資金が足りなくなり、預金に手をつけてしまいます。家庭内で問題になり、妻に厳しく追及されて「もう二度とやらない」と誓いました。

3)しかし、約束から数ヵ月後、同僚に誘われてパチンコ店へ行き、それからまた使いこみがはじまりました。今度は預金だけでは足りず、消費者金融から借金もしました。妻の両親にも知られ、大問題に。借金を隠していたことも明るみに出てしまいました。

ギャンブルのために借金をして、それを家族に隠そうとしているということは、依存症が疑われます。この段階になると、家族と約束をしても、ギャンブルをやめることはなかなかできません。治療が必要です。

樋口 進(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター名誉院長・顧問・精神科医)

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ギャンブル依存症から抜け出す 第4回

依存症になると金銭感覚がゆがみ、生活感も乱れていく

依存症の人は、ギャンブルを中心に物事を考えようとするため、考え方がゆがみ、非常識な言動をするようになっていきます。とくにゆがみやすいのが、金銭感覚です。「家族の預金を使いこむ」「自分では返せないほどの借金を背負う」といった大問題を起こしても、問題意識をそれほど強くもてなくなったりします。

「自分は適度にギャンブルを楽しんでいる」「家にはまだ使える金がある、余裕はある」などと考えてギャンブルを正当化し、ほかのことを軽視するようになっていきます。そのため、考え方がずれていってしまうのです。

家族などまわりの人にしてみればとんでもないことですが、これも病気の症状のひとつです。話し合いだけで解決できることではないので、治療によって、本人の意識や考え方の見直しをはかっていきましょう。

一時的に反省するが再びギャンブルに手を出してしまう

依存症の人の多くが、過去に一度はギャンブルをやめています。家族と約束して誓約書をつくる人や、決意のあかしとして店舗の会員カードを処分する人もいます。

しかし、約束を守り通すことは簡単ではありません。依存症の人の脳はギャンブルにとらわれ、意志の力だけで行動パターンを変えることは難しいのです。そのため、反省が一時的なものになってしまいます。

注意されて素直に反省し、やめることを約束しているときの気持ちは本心です。本人が本気でやめようと決心してもやめられないところに、この病気のこわさがあります。

【反省からギャンブル習慣の再発まで】

罪悪感がある

本人に「よくないことをしている」という罪悪感がある

でも続けてしまう

ギャンブルに心をとらわれていて、やめられない

問題が表面化する

借金や連続欠勤などの問題が表面化するまでギャンブルを続ける

やめることを約束

問題を家族などに注意されると、やめることを約束する

またやってしまう

ギャンブルをやめると約束したのに、またやってしまう

家庭や仕事に気が回らなくなり、生活に支障を起こすようになる

ギャンブルに心をとらわれてしまうと、家族への気遣いや仕事などに、気が回らなくなっていきます。その結果、家庭でも仕事でも問題を起こしたり、叱責されたりすることが増えます。

本人は、ギャンブル以外のことに強いストレスを感じるようになります。ギャンブルへの依存が強くなり、そして、生活上の問題も悪化していきます。悪循環から抜け出せなくなるのです。

そうした悪循環が続けば、事態はより深刻に。家庭では離婚、職場では失職といった問題が起こるようになります。家庭にも職場にも見放され、そんな状況を招いた自分を責めます。やがて本人は自暴自棄になり、自殺を考える人もいます。

打つ手がなくなり、窃盗や横領など違法行為に手を染める

ギャンブル依存症の人にとって重要なのは、ギャンブルを続けることです。そのために嘘をついて時間をつくったり、借金を繰り返したりするわけです。しかし、嘘や借金には限界があります。いずれは家族などまわりの人が疑いをもちはじめます。

そこで反省して足を洗う人もいます。しかしなかには、預金を家族に無断で使ったり、会社のお金を横領したりしてでも、ギャンブルを続ける人もいます。本人は追いつめられ、正常な判断ができなくなっています。

「会社に少し立て替えてもらっているだけだ」「ギャンブルでお金を増やして返せば、問題ない」などのように、人のお金を一時的に借りているだけで、あとで返せば問題ないと考えていたりします。ギャンブルのためには手段を選ばない状態で、非常に危険です。この状態になる前に診断を受け、治療をはじめましょう。

【会社のお金を使い込んだBさんのケース】

Bさんは20代のときに競馬で借金をつくり、父親に清算してもらったことがあります。それ以来、競馬はやめ、真面目に働いてきました。

1.Bさんは現在、40代に。十数年間、ギャンブルから離れて過ごしてきましたが、最近、習慣が再発しました。同僚から、オンラインで馬券を買う方法を聞いたのです。

2.家族に隠れて馬券を買うようになると、すぐに資金が足りなくなり、借金生活に。Bさんは追いつめられ、会社の経理を操作して、裏金をつくるようになりました。

3.やがて、不正請求が明るみに。Bさんは懲戒処分の対象となり、家族には競馬で借金があることを告白。公私ともに生活が破綻してしまいました。

問題を起こしたり、違法行為に手をつけたりするのは、重症化したときにみられる症状です。本人と家族だけでは対処しきれません。医療機関や法律相談窓口への相談が必要です。

樋口 進(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター名誉院長・顧問・精神科医)

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ギャンブル依存症から抜け出す 第5回

たいていの場合、本人には自覚なし。家族が主体的に動こう

ギャンブル関連の問題が起きると、家族は問題を解決し、本人を立ち直らせようとします。しかしその期待は多くの場合、裏切られます。家族がいろいろと世話を焼いても、本人はギャンブルをやめようとしないのです。

家族は、本人が嘘をついてまでギャンブルを続ける様子などをみるうちに、「これは病気だ」と感じるようになります。ところが本人はたいてい、「自分は病気ではない」と思っています。

本人が自分から通院する可能性は低いので、家族が主体的に動き出し、早期受診・早期治療への筋道を整えていきましょう。ギャンブル依存症は、基本的に通院治療で治せる病気です。専門医療機関で「認知行動療法」を受け、行動や考え方を見直すことで、生活を切り替え、状態を改善します。

受診先がよくわからない場合は、精神保健福祉センターなどの公的機関へ。近隣に総合病院や精神科の病院・クリニックがある場合には、そちらへ問い合わせるようにしましょう。

医療機関を探すなら公的機関やネットをチェックしよう

ギャンブル依存症の人には、治療が必要です。しかし現実的には、そのための専門医療機関はまだ少なく、地域によっては、医療機関がなかなかみつからない場合もあります。その場合には、公的機関やネットを利用して、地域の医療機関の情報を集めましょう。

また、公的機関のなかには、依存症の人やその家族のための家族教室を定期的に開催しているところもあります。家族教室は、依存症という病気の基礎知識や、生活面の注意点などを学ぶことができる、勉強会のようなものです。受診先がみつからない場合に、ひとまず家族教室に参加し、病気への対応を学ぶというのも、ひとつの方法です。

【公的機関に問い合わせる】

精神保健福祉センター

心の健康の相談業務などをしている公的機関。各都道府県や政令指定都市に設置されている。本人や家族、関係者が相談できる。依存症の家族教室を開催しているところもある。

保健所

心身の健康の相談業務などをしている公的機関。各都道府県や政令指定都市などに設置されている。本人や家族、関係者が相談できる。

【インターネットで探す】

インターネットで医療機関を探すこともできます。自分で検索することもできますが、専門医療機関のリストが公開されているので、参考にしてください。

久里浜医療センター 全国医療機関/回復施設リスト

公式ホームページで依存症の専門医療機関と回復施設のリストを紹介している。依存症全般への対応リストだが、ギャンブル依存症に対応している機関も掲載されている。

治療プログラムには通院・入院の2種類がある

医療機関で受けられる治療の例を、久里浜医療センターの実施しているプログラムからご紹介します。プログラムには通院治療・入院治療の二種類がありますが、基本的には通院治療が第一選択となります。重症の場合などに、入院治療が検討されます。

通院の場合も入院の場合も、治療法は基本的に同じです。ギャンブル依存症では、カウンセリングや認知行動療法などの治療がおこなわれます。認知行動療法は本人のギャンブルに対する考え方や行動を調整するための治療法です。合併症がある場合は薬物療法も実施されます。入院の場合は生活指導なども追加され、より手厚い治療プログラムとなります。

【治療プログラムの流れ】

初診

初回は精神保健福祉士などに生活の様子を聞かれる。そのあと医師による診察や検査がある

再診

2回目も引き続き、医師による診察や検査を受け、ほかの病気との鑑別などがおこなわれる。主な検査は、心理検査(うつ病や不安症、発達障害などの合併を確認)、脳検査(脳腫瘍や脳梗塞などの合併症を確認)、血液検査(病気の有無や基本的な健康状態を確認)など

通院治療

3回目以降は通院でカウンセリングや認知行動療法などの治療を受ける。1週間に1回程度、通院する→診察のあと、入院治療となる場合もある。期間は基本的に2ヵ月間。認知行動療法などの治療を受ける

経過観察

認知行動療法は、全6回で完了。その後は定期的に通院して医師の診察を受け、再発予防につとめる。入院治療の場合も、退院後は再発予防のために定期的に通院し、医師の診察を受ける

手紙療法

認知行動療法完了の6ヵ月後、12ヵ月後に、センターから本人へ手紙が届く。手紙を通じて治療経過を本人も確認する

樋口 進(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター名誉院長・顧問・精神科医)

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ギャンブル依存症から抜け出す 第6回

集団での「認知行動療法」で、考えや行動を見直す

治療の中心は認知行動療法です。患者さんが医師や心理士、ほかの患者さんのたすけを得ながら、ギャンブルに関する考えや行動を見直していきます。

ギャンブル依存症の人は、長い間ギャンブルにのめりこんできたため、脳機能が変化し、考えや行動にかたよりが生じています。そのかたよりを修正し、元の習慣をとり戻すために、認知行動療法が役立ちます。認知(考え)と行動に働きかける方法で、主に医師や心理士、ほかの患者さんとの対話によって進めていきます。

患者さんは対話などを通じて、過去の出来事やそのときの考え、行動を分析します。そうして自分の考えや行動を見直し、少しずつ変えていきます。その過程で、脳機能のかたよりが少しずつ修正されるといわれています。

合併症や精神的な不調に「薬物療法」をおこなう

ギャンブルへの渇望など、ギャンブル依存症そのものの症状を軽減させる治療薬は、残念ながらまだ開発されていません。そのため、ギャンブル依存症の治療では、基本的には薬物療法はおこなわれません。

しかし、患者さんにほかの心の病気がある場合や、精神的な不調がみられる場合には、それらの関連症状に対して薬物療法をおこなうことがあります。

薬を使って抑うつ症状などの精神症状を軽減することで、患者さんの生活が安定します。結果として、ギャンブル依存症そのものの治療にも好影響が出ます。

【症状を分けて考える】

ギャンブル依存症

ギャンブルへの渇望や、金銭感覚など考え方のかたより、嘘をつくことなどは、ギャンブル依存症の症状

効果の検証中

ギャンブル依存症の症状そのものを軽減する治療薬はない。抗うつ薬やオピオイド拮抗薬などの有効性が検証されているが、まだ研究段階。今後に期待がかかる。

心理的な背景

本人の心理的な背景から生じている症状。精神的な不調や、自殺願望、衝動性の強さなど

薬で症状を軽減できる

抑うつ症状などの精神症状が強く、自殺の危険性が高い場合などには、症状を軽減させるために薬を使う場合がある

うつ病などの合併症

合併症によって引き起こされている症状。気分の落ちこみや強い不安、アルコールやタバコへの渇望など

治療薬を使う

うつ病や不安症、ギャンブル以外の依存症など、合併症がある場合には、その病気の治療薬を使って症状の軽減をはかる

気を抜きやすい時期に、医療機関から手紙が届く「手紙療法」

治療が順調に進めば、ギャンブル依存症から抜け出すことができます。しかし、それはゴールではありません。そのあとに長く続く人生で、ギャンブルをしないという状態を維持していくことが、この病気の治療のゴールです。

そうした治療後の生活を支えるための治療法が、手紙療法です。治療からしばらくたって、患者さんや家族が気を抜きやすくなった時期に、医療機関が患者さんへ経過をたずねる手紙を送ります。

患者さんは手紙をみて、病気のこわさや治療の重要性を思い返します。そして気を引き締め、生活習慣を再確認するわけです。

【治療の経過】

治療中

ギャンブルをやめようという意欲が強い。治療中にギャンブルをしてしまう人もいるが、治療が進むにつれて、状態は改善していく

治療後

治療を通じてギャンブルをやめることができたという達成感や安堵感がある。その状態を続けていきたいという意欲をもっている

治療の6ヵ月後

「もう大丈夫」と感じる頃に、本人が「少しくらいなら」と考えてギャンブルをすることがある。家族にもその頃には油断が生じやすい

手紙療法

治療からしばらく月日がたつと、本人にも家族にも、どうしても油断が生じてしまう。その頃に手紙を使って治療経過を確認するのが手紙療法。手紙を通じて病気や治療を振り返ってもらうことが、再発予防につながる

経過観察

手紙を通じて治療経過を確認し、とくに問題がなければ、そのまま経過観察となる。その6ヵ月後に再度、手紙が届く。またギャンブルに手を出すようになっていたら、借金などの問題がまだ起きていなくても受診を検討する

樋口 進(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター名誉院長・顧問・精神科医)

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ギャンブル依存症から抜け出す 第7回

自分たちだけで背負いこまず、第三者にも相談しよう

治療が順調に進めば、ギャンブルをやめることができます。しかし、そこで元の生活に戻ると、ふとしたきっかけで本人がギャンブルに手を出し、依存症が再発してしまう場合があります。

ギャンブルをやめた状態をキープするためには、本人と家族が生活を見直し、ギャンブルしにくい環境を整えることが重要です。しかし、生活を見直していくうえでは、借金の問題など、本人と家族だけでは対処しきれないことも出てきます。

問題を自分たちだけで抱えこまなくてすむように、第三者にも相談し、協力してもらいましょう。医療機関や自助グループ、法律相談窓口が頼りになります。専門家などに相談しながら、生活を整えていってください。

医療機関

治療がすでに完了していても、状態がよくなければ、躊躇せずに受診したほうがよい。再発予防にも

自助グループ

ギャンブル依存症の本人や家族がつくっている、近隣のグループに参加を。同じ病気に悩む人の生活や気持ちを知る機会ができる

法律相談

弁護士や司法書士など法律の専門家に相談する。相談先がみつからない場合は、自治体や弁護士会、法テラス(日本司法支援センター)などの法律相談窓口を利用する

本人は医療機関や自助グループに根気よく通い続けよう

ギャンブル依存症は、再発する病気です。依存症の人は通院し治療を受けている最中でも、ふとしたきっかけでギャンブルに手を出してしまうことがあります。

治療によってギャンブルをやめることはできても、それでギャンブルへの渇望が消えるわけではありません。ある調査では、ギャンブル依存症の治療を受けたあと、再びギャンブルに手を出してしまった人が約48パーセントにのぼったという結果が出ています。この病気の渇望は、それほど強いということです。

本人が日常生活のなかで渇望と闘うことは、治療中も治療後も続きます。順調な人でも、数年間はそうした日々が続くでしょう。長い日々になります。ですから本人は、医療機関や自助グループに通うことを習慣にしましょう。医師や医療スタッフ、ほかの当事者とのつながりをもち、ギャンブル関連の問題と向き合う機会を増やしてください。そうすることが、再発予防につながります。

【ひとりでは再発の危険性が高まる】

医療機関に通ってきちんと治療を受けていても、ひとりになると、ふとギャンブルをしたくなる瞬間があります。そのような瞬間に再発の危険性が高まります。

・仕事などの鬱憤をギャンブルで晴らすことができなくなり、ストレスが蓄積する

・友人や同僚など、周囲の人がギャンブルをしていることをねたましく感じる

・性格的に我慢することが苦手で、自分を甘やかしそうになる瞬間がある

・以前の習慣が残っている。休日などには、ギャンブルのことが気になってしまう

ギャンブル以外に新しい趣味や活動を見つけて楽しもう

本人は、医療機関や自助グループに通って「ギャンブルと向き合う習慣」をつけること、そして日常生活のなかで「ギャンブルから離れる習慣」をつけることに、とりくみましょう。その二つの習慣が定着してくれば、再発する可能性は小さくなります。

パチンコ店や宝くじの広告、競馬新聞など、日常生活からギャンブルに関連するものを遠ざけましょう。また、ギャンブル関連の友人・知人との縁を切り、可能であれば同僚などにもギャンブルの誘いをしないように頼みます。そして、ギャンブルを遠ざけるとりくみの一環として、ギャンブル以外の趣味や活動をもつようにしましょう。そのことをしている時間帯は、ギャンブルを考えなくて済むようになります。

たとえば、運動習慣をつけるため、ウォーキングやランニング、水泳、ジムでの体力づくりなどを定期的におこないます。体力がない人は散歩程度でもかまいません。

車・バイクの手入れやドライブ、ガーデニング、スケッチ、楽器を演奏することなどを趣味にするのもよいでしょう。炊事や掃除など家事を自分の仕事にするのもおすすめです。美術館や動物園、キャンプやコンサートへ行ったり、ボランティア活動をしたりするのもよいでしょう。

その一つひとつは小さなことですが、小さなことを積み重ね、徹底することで、ギャンブル依存症から抜け出すことができます。

樋口 進(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター名誉院長・顧問・精神科医)

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ギャンブル依存症から抜け出す 第8回

家族は依存症について学びながら、自身のケアも忘れずに

ギャンブル依存症の人は、さまざまな迷いを抱えながら、この病気と向き合っています。本人が悩む様子をみると、家族は助言をしたくなるかもしれませんが、家族があれこれと言葉をかけても効果が出ることは少なく、むしろ本人にプレッシャーを与えてしまいます。

家族は助言をひかえ、まずは依存症について学ぶことを優先しましょう。病気を学び、本人の置かれた状況を理解することを心がけてください。医療機関や自治体が家族教室を開いて、依存症のことを家族向けに説明しています。そうした教室に参加し、生活面の注意点を学ぶとよいでしょう。

その一方で、依存症の人の配偶者に、うつ病や不安症などの心の病気がみられることがあります。ある調査では配偶者の約15パーセントが心の病気で医療機関にかかっていたという結果が報告されています。家族にも長年のギャンブル関連の問題によって、ストレスが蓄積しているのです。共倒れしないように、家族も必要に応じて医療機関を受診するなど、自身のことをケアしましょう。

本人にかける言葉は「自分の気持ち」「対策」「提案」の3つ

家族教室などで依存症という病気の特徴を学ぶと、この病気の人には考えのかたよりが生じやすいということがわかります。

本人がギャンブルに心をとらわれ、嘘をついたり借金を繰り返したり、日常生活を軽視したりするのは、依存症という病気の症状ともいえます。その部分をいちいち責めるのはやめて、別の方法で、本人と対話しましょう。

本人には、家族としてのつらい気持ちを伝え、具体的な対策や、専門家への相談・受診を提案するようにしてみてください。そうして一つひとつ対策を打っていくことが、回復への道筋になります。

【本人に伝わりやすい3つの言い方】

家族は本人に「自分の気持ち」「具体的な対策」「相談・受診の提案」の3つを伝えるようにしましょう。この3つには、本人の言動を否定するニュアンスが含まれません。そのため、本人に伝わりやすい言い方になり、問題解決への期待にもつながります。

1.「私は~」と自分の気持ちを伝える

「どうしてまた借金を」などと、本人の責任を問うのはやめる。それも症状のひとつと考え、かわりに「私は借金をされてつらい」と、自分の気持ちを伝えるようにする。そうすると口論が減り、家族の気持ちが多少は本人に伝わる

2.あきらめずに対策を示し続ける

本人がギャンブルをやめると言いながら、また手を出してしまうことがある。これも病気の特徴のひとつ。家族が「これじゃ一生治らない!」とあきらめてしまったら、改善は望めない。根気よく対策を示し続けたい

3.相談・受診は強要せず、提案する

専門家への相談を本人に無理やり約束させても、守ってもらえない場合がある。本人に病気だという自覚は生まれにくいので、自主的な相談・受診を期待するのは難しい。家族からの提案という形でもちかけるほうがよい

家族は借金の肩代わりをやめ、あくまでも返済のサポートを

家族は、お金の問題を早々に解決し、本人を治療に集中させたいと思うかもしれません。しかし、家族が肩代わりしてはいけません。そうしてお金の問題を本人から切り離すのは、誤った対応です。お金の問題がなくなるということは、本人にとっては、ギャンブルしやすい環境が整うということと同じで、再発を助長することにつながります。

本人がギャンブルで借金をしている場合には、まずその総額を調べましょう。本人から、すべての借金を聞き出してください。そうして家族はお金の問題の全体像を確認することと、その清算や返済のサポートを、自分たちの役割だと考えましょう。

【借金の種類】

・会社の給与や賞与、退職金などを家族に無断で受けとっている場合がある

・一般の金融機関からの借金。比較的調べやすく、返済計画も立てやすい

・家族や親族から借りたもの。子どもの預金を使いこんでいる可能性もある

・いわゆる「ヤミ金融」からの借金。弁護士など専門家への相談が必要に

・友人・知人や、ギャンブル仲間からの借金。借用書や金利などを確認する

借金の全貌がみえたら、本人が働きながら返済するという前提で返済計画を立てます。そのために援助が必要な場合には、家族・親族が協力を検討してください。

借金が複雑で、家族だけでは対処できない場合には、弁護士や司法書士などの専門家に相談するとよいでしょう。返済が難しい場合には、債務整理や自己破産などの方法をとれば、借金を整理し、現実的な返済計画を立てることができます。

借金の問題を解決する方法はいろいろと用意されています。あきらめずに相談してみましょう。

樋口 進(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター名誉院長・顧問・精神科医)

現代ビジネス

私も医療機関で回復プログラムを受けて本当に良かったです。

ギャンブルの事で悩んだら相談機関へ。

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