【全て溶かすまで】ギャンブル依存症…あなたは本当に大丈夫ですか?

https://ganbulingaddiction.com/2024/04/16/news-434/(新しいタブで開く)ニュース

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「つけるうそ全部ついた」患者語る賭博依存◆若者にも浸透、見抜くサインは【時事ドットコム取材班】

ドジャース・大谷翔平選手の専属通訳だった水原一平容疑者が、違法賭博の借金返済のため、大谷選手の口座から24億円超を無断送金していたとして刑事訴追された。水原容疑者は自身を「ギャンブル依存症」と告白。自分と周囲の人生を巻き込み、患者自身が「たとえ何億円勝っても、溶かし切るまでやめられない」と話す依存症の現状について、支援団体や専門医に取材した。(時事ドットコム編集部 太田宇律)

◇解決にならない「肩代わり」

 2024年4月6日、東京・茅場町にあるビルの一室で、公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」が主催する家族相談会が開かれていた。参加したのは、配偶者や子どもらがギャンブルにのめり込み、借金や横領といったトラブルを起こした10組の家族。主催団体の田中紀子代表が「まずは、借金の肩代わりをやめましょう。金額が膨らむのを恐れて手助けしてしまうと、当事者はいつまでも回復を始められず、依存症が悪化するばかりです」と語り掛けると、参加者は真剣な表情でうなずいた。

 「別居中の夫の借金の埋め合わせで、家計がかつかつ」「息子が会社のお金を横領してしまい、解雇されないよう自分が肩代わりしたが、また使い込んでしまった」―。田中代表は家族ごとに相談内容を聞き取り、家族や当事者同士でつながる「自助グループ」の紹介や専門施設への入院、自己破産や債務整理などを提案していった。田中代表によると、必要な対策は人によって千差万別で「オーダーメードが基本」という。

 息子の横領について相談した女性は、転職と専門施設への入院を勧められた。転職については「早朝から深夜まで頑張って働いて、ようやく今の地位にたどり着いたと本人が言っているので…」と難色を示したが、田中代表は「ギャンブラーに会社のお金を扱う仕事をさせてはだめ。無理な働き方をしていると、ストレスでギャンブルが止まらない」と説得。「家族がかばってしまうと、いつまでも回復を始められない。まずお母さんが家族会に通って、正しい知識を身に付けて」とアドバイスした。

◇コロナが広めた「スマホ賭博」

 実は田中代表自身も、競艇やカジノといったギャンブル依存と買い物依存に悩む当事者の一人だ。夫や父、祖父もそれぞれギャンブルの問題を抱えていたといい、夫の借金の肩代わりで生活が行き詰まったことがきっかけで、04年に夫婦で自助グループに参加。ギャンブルをしない生活を取り戻すと、当事者の家族を支援するカウンセラーとなり、14年に「考える会」を立ち上げた。

 田中代表によると、国内のギャンブル依存症を取り巻く環境は、この数年間で大きく様変わりしたという。最も大きな変化は、スマートフォンを使ったギャンブルが浸透したことだ。新型コロナウイルス拡大による巣ごもり需要により、競馬や競艇といった公営ギャンブルのインターネット投票が急速に普及し、違法なオンラインカジノやスポーツ賭博サイトも流行。「考える会」では20年以降、家族からの相談のうち、オンラインカジノに関する相談の割合が約4%から約20%に急増しており、当事者の年齢も20~30代の割合が増加している。

◇広がる「賭博犯罪」に危機感
 
 さらに深刻なのが、横領や窃盗、詐欺といったギャンブル絡みの犯罪行為に関する家族の相談件数が年々増えていることだ。相手方が示談に応じるなどして刑事事件に至らなかったケースも含めると、22年は相談全体の17.7%、23年は全体の28.2%が該当。オンラインカジノなどの違法賭博を行っていた当事者のほうが、こうした犯罪に手を染める割合が多かった。

 田中代表は、「違法賭博を行う人は、犯罪に対する心理的ハードルも低い」「若者は借金できる額が少ないため、闇バイトなどに勧誘されやすい」「違法サイトでは24時間ギャンブルができるため、短期間で依存症になりやすい」―といった背景があると分析。ユーチューバーの動画を見てオンラインカジノに関心を持った高校生が、親の口座を使って無断でギャンブルをしていたケースもあったという。

 「今はスマートフォン一つで、借金もギャンブルも簡単にできる時代。いつでもどこでも賭けられるようになり、若年層にも依存の問題が広がっている」と危機感を強める田中代表。ギャンブルサイトへのアクセスを遮断するスマホアプリや、テレビCMの規制など、効果的な対策が必要だと訴えた。

◇「1万円が100万円に」借金は1000万円に

 依存症に陥ってしまった場合、通常の生活を取り戻すために何ができるのか。ギャンブルやアルコール、ゲームなどの依存症治療を行っている国立病院機構「久里浜医療センター」(神奈川県横須賀市)を訪ね、入院患者の治療プログラムの様子を取材させてもらった。

 この日取材できたのは、ギャンブル依存症の正しい知識を身に付けるための勉強会。「依存症になると、ちょっとした刺激に反応して、うそやごまかしに無自覚になってしまう。どんな刺激に接してもギャンブルをしないで済む力をつけるには、最低でも3年はかかります」。カウンセラーがそう説明すると、30代の男性患者は「わかりました」とうなずいた。

 この男性は競艇やパチンコ、スロットでヤミ金や消費者金融などに計1000万円の借金を作り、1カ月前にこのセンターに入院した。「一番大勝ちしたのは、競艇で賭けた1万2500円が百数万円になったとき。雨が降る中、外に出て『よっしゃあ』って叫びましたね。賭けた選手の名前まで覚えている」と話す。

 センターでは勉強会の他に、規則的な生活を身に着けるための指導や、自分の考え方や行動を客観的に見つめ直すための「認知行動療法」などを受け、ギャンブルのない生活を送れるようになることを目指している。「以前は『仕事に行く』と言ってギャンブルをしたり、家族に黙って借金をしたり。つけるうそは全部ついたと思う」と振り返り、「このままでは、子供を大学に行かせることもできなくなる。退院後は家族と普通の生活を送りたい」と語った。

◇2億勝っても「溶かすまでやめない」

男性の話で印象に残ったのが、「ギャンブルに目標額はない。元手がたとえ2億円に増えたとしても、全部溶かし切るまでやらないと収まらないと思う」という言葉だ。普段は「スーパーの値引きも気にするほど『けち』な性格」というが、ギャンブル中は金銭感覚がおかしくなることを自覚し、入院を決めたという。

 医療センターでの取材を終えたすぐ後に、水原一平容疑者が銀行詐欺容疑で刑事訴追されたとのニュースが世界的に報じられた。容疑内容は、違法賭博で抱えた借金を返済するため、大谷選手の銀行口座から1600万ドル(約24億5000万円)以上を不正送金したというもの。2021年12月から24年1月までに合計約1万9000回、1日平均で約25回も賭け、約62億円を「溶かした」とされる。

 米連邦検察が公表した裁判資料などによると、水原容疑者は大谷選手を装って銀行に電話するなど、ギャンブルを続けるためにさまざまな工作を実行。胴元側には「限度額を上げてほしい。これが最後だ」と何度も懇願していたという。

 周囲を巻き込み「溶かし切るまで」突き進むギャンブル依存症。大切な人を止めるためにはどうしたらいいのか、久里浜医療センター精神科診療部長の松崎尊信医師に聞いた。

◇うそ発覚は「依存症のサイン」―松崎医師の話

 米精神医学会のマニュアルでは、「失った金をギャンブルで取り戻そうとする」「ギャンブルをしているのを隠すためうそをつく」など9項目のうち4つ以上該当した場合、「ギャンブル障害(依存症)」と診断できる。発症の原因にはドーパミンという脳の神経伝達物質が関係しているとされるが、それだけではなく、もともとギャンブルが身近な環境の人ほど依存に陥りやすい傾向にあるなど、環境要因も関係することが分かっている。

 ギャンブルを巡るうそや借金などの隠し事が発覚したら、依存症を疑うサイン。家族はまず「感情的に責めない」「借金の肩代わりをしない」「相談機関や専門医療機関に早めに相談する」―の3つを心掛けてほしい。医師にも借金額を小さく申告して治療の妨げになることがあるため、医師と患者の間でも「うそをつかなくてよい関係」を作ることが大切だ。

 ギャンブル依存症の当事者は自殺リスクが高く、命に関わる病気とも言える。ギャンブルで失ったお金や人間関係などについて本人が冷静に客観視し、年単位でギャンブルから離れることが回復につながる。

時事通信社(2024年4月16日)
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