親の心を子が知らなかったわけではあるまい。だが、子は親をあやめた――。
和歌山県海南市にある「大道商店」は、米の販売やしらすの加工直売で地元の高い評判を得ていた。その店主の大道正富さん(66)を殺害したのは、ともに店を切り盛りしていた大道さんの次男、大道正幸容疑者(34)だった。
地元記者が振り返る。
現金約15万円入りの封筒
女性従業員の出勤時に商店は施錠されておらず、「従業員などの情報でレジの約5万円がなくなっていることが分かり、県警は強盗殺人事件と断定。海南署に捜査本部を設置したものの、犯人はすぐに割れました。逮捕前の聴取で、次男が“店の現金を持ち出そうとしたら親父に見つかった。口論になり、カッとなって金づちで頭を殴り、殺した”と自供したのです」
12日未明、県警は正幸容疑者を強盗殺人容疑で逮捕した。
「次男の車内から約5万円が、しらすの加工場からは、商店の事務机にしまわれていた現金約15万円入りの封筒も見つかりました。ともあれ、親子であっても経営する店のお金を従業員が盗もうとすればとがめるのは当然。金づちで撲殺するなど尋常ではありません」
「初めてじゃない」
近隣住民の話では、「大道さんの家はもともと米穀店で、地区の区長を務めていました。盆踊りの準備や避難訓練でも先頭に立ってくれる、地域で頼られる存在です。一方の息子さんはおとなしくて真面目な人。親子仲良く大道商店を運営していたのにね」
でも実は、と大道さんの古い知人が明かす。
「正幸が商店の金に手をつけたのは初めてじゃないんです。それも一度や二度ではない。その“手癖”に大道さんは困っていました。だから今回、かなり強くとがめたのでしょう。手をつけた理由は分かりませんが、外に女を作ったり酒やギャンブルにハマっていたとは聞いていません」
パチンコにハマり大学を中退
ただ、こんな過去がある。「大道さんと奥さんは長男を小さいころに亡くしています。奥さんのショックは相当なもので、供養のためにずっと地蔵巡りをしていた。そんな中正幸を授かり、大道夫妻は大変な喜びようでした。それで、大道家の長男として厳しく育ててきたのです。正幸は成績も良く、県立で一番の進学高校に入って野球部でも頑張っていました」
ポジションはサード。3年時には夏の甲子園の県予選で登録メンバー入りした。
「高校を卒(お)えて三重大学に入学した正幸は親元を離れました。ところがパチンコにハマって金に詰まるようになり、大学を中退して和歌山に戻った。以降は正幸も心を入れ替えて商店の仕事に励み、12年前に結婚した夫人と2人の娘さんとで幸せな家庭を築いていると思っていました」
この知人いわく、大道さんは“米だけでは将来不安なので、多角化を”との考えで大道商店を作った。そして常々、 “商店が、息子や孫のためになればいい”と口にしていたという。
「週刊新潮」2024年7月25日号 掲載
容疑者は「店の現金を持ち出そうとしたら親父に見つかった。口論になり、カッとなって金づちで頭を殴り、殺した」と自供しているのと、容疑者と父親の間で金銭について揉め事があったのはこの時だけではなかったという証言があることから、度々、金銭についての揉め事があったのは事実だと思います。
この時だけならば、口論となり殴り殺すという事にまで発展するとは考えにくいと思うからです。容疑者もこの商店で働いている身分ですから、咄嗟に嘘をつくこともできるでしょうし、父親もこの時だけならば、何か深い理由があるのではと耳を傾けると思うのです。
しかし、度々こういった事が続いていた。また、その金銭の使い道について、親子の間で何度も言い合いがあったなどがあったとしたら、本件のような事件になっても何ら不思議ではありません。
そして、容疑者は「再びパチンコにのめり込んでいた…」可能性が考えられます。
ギャンブル依存症は寛解はあっても完治はない病気と言われており、何年もギャンブルをやめていた人が再びギャンブルに手を出して深みにはまっていくケースは多いともいわれています。これはタバコを何年もやめていた人が再び吸い出して、やめられなくなるケースに似ていると表現すると分かりやすのではないでしょうか。
私の知っているギャンブル依存症者は15年以上、パチンコ・パチスロをやめていますが、今でも会話でパチンコ・パチスロの話をすると尋常じゃない程の嫌悪感を表します。きっと、今でもギャンブルの衝動と闘っていて、スリップしてしまう恐怖も抱えているのだと思います。
つまり、容疑者がギャンブル依存症者であった場合、事件が起こった前から再びパチンコにのめり込んでいた可能性は十分考えられるということです。
ギャンブルにハマるきっかけは多種多様であり、ギャンブル依存症者の根本にある原因は複雑に絡み合っていると云うのが専門医の見解ですので一概には言えませんが、仮に容疑者がパチンコにハマってしまった原因を父親の厳しい育て方に責任転嫁していたら、口論の末に父親に手をかけることもあり得ると思うのです。
父親から何度も咎められてもパチンコがやめられない。手を付けてはいけない金銭にまでパチンコに費やしてしまう。そして、終には自分を育ててくれた父親を手をかけてしまう…。ギャンブル依存症者であれば、このような最悪のシナリオを迎えることは、過去から現在に至るまで幾度となく繰り返されるパチンコ関連事件を見ても十分考えられることです。
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