職場への不満、借金は妻にばれ…勤務先に火をつけた男(30)は裁判の結審前に謝罪の言葉を口にした「身勝手な行動で迷惑を…」
首元までボタンをしめ、きれいに磨かれた靴を履いて入廷して来た30歳の男は結審前、最後に証言台で「自分の身勝手な行動で迷惑をかけたことを申し訳なく思っている」と話しました。
去年7月の早朝、山形県朝日町の家具メーカーの工場で火災がありました。
火は7時間以上にわたり燃え、家具の材料や作業場など約2380平方メートルを焼きました。その後、関係者への聞き取りや防犯カメラの解析などから、男が逮捕されます。
建造物等以外放火の疑いで逮捕されたのは、この会社に勤める30歳の男でした。
■「おおむね間違いありません」裁判中顔はうつむき目をつぶっていた男
12月13日に始まった裁判。
法廷に入ってきた男は身長170センチ程度の中肉中背、目のほとんどは前髪で隠れ、上下黒のスーツで落ち着いた足取りでした。冒頭、検察側が、男の建造物等以外放火の罪について読み上げます。
裁判長からその内容について問われると、「おおむね間違いありません」と答えました。検察側が語った、男の犯行に至ったいきさつをみていきます。
■自分の作った製品にクレーム・妻子は家を出て…増す苛立ち…
男はこの会社でソファー組み立てや塗装をする班に配属され、班長を務めていました。
しかし、去年12月頃から製作した製品にクレームが寄せられるようになったといいます。
その原因は、男が納期短縮のために工程を省略したことによる不具合などでした。男は上司から製品の作り直しを命じられましたが、「時間外労働をして納期に間に合わせようとしているのに、会社は部下のことを考えていない」などと不満を募らせるようになったということです。
さらに、私生活でも、男への圧力が高まります。
男は消費者金融から借金を重ね、パチンコをしていました。
借金については家族に言っていませんでしたが、妻にばれ、妻と子どもが家を出ていきます。男は私生活もうまくいかないと感じ、さらに苛立ちを増すようになったということです。
■「会社を困らせてやりたい」朝5時に自宅を出て工場へ 乾燥木材のブースへ向かった男はライターで…
事件当日、男は午前5時に自宅を出て工場に向かいます。
検察は男が会社に対する不満から「会社を困らせてやりたい。会社を困らせるには製品の材料である木材を燃やして使えなくするのが一番手っ取り早い」などと考えたと説明しました。
そして、男はあることを思い出します。
家族とバーベキューをした際に、着火剤代わりに使った、会社に置いてある木材です。
男は工場内の乾燥ブースにある、その燃えやすい木材に、午前6時20分頃、持っていたライターで火をつけたということです。
火は乾燥ブース内の大量の木材を燃やし、天井鋼板も変形させました。
さらに火は燃え広がり、約7時間にわたって燃え続け、約2380平方メートルを焼きました。
■男は犯行後現場を立ち去り、出勤を装い工場へ戻った
検察は男は火がついたのを確認すると、火災感知器が作動したり、ほかの従業員が出社したりして犯行が発覚する可能性があると考えすぐに現場から逃走。
現場から離れたコンビニエンスストアでタバコを買うなどした後、午前7時過ぎに、出勤するように装って現場に戻ったと説明しました。一方、弁護側は「被告はライターの火によって木材が赤くなった時点で現場を離れたため、発火している様子までは確認していない」としました。
■検察側「懲役2年6か月」弁護側「執行猶予付きの判決」
1月24日に行われた裁判では、
検察側は「損害は大きく、身勝手で短絡的な犯行」などとして、懲役2年6か月を求刑。一方の弁護側は、
会社が受けた損害は数億円にのぼる見込みですが「すでに200万円の被害弁償も行い、逮捕後も事実を認め、今後も償っていく意思がある」などとして、執行猶予付きの判決を求めました。男は最後に裁判長から「言い残したことはありますか」と問われ、
「自分の身勝手な行動で社長や社員の家族にも迷惑をかけたことを申し訳なく思っている」と話しました。判決は2月6日に言い渡されます。
テレビユー山形(2024/1/25)
被告が犯した罪は決して許されるものではありません。
その上で、同じギャンブル依存症者であろう被告を報道から読み解くと、被告は日頃職場などでは不満を漏らさず、我慢強く、上手くストレスを発散する術も持ておらず、ストレスを蓄積してしまうタイプの人間像を想像します。
そして、何よりも被告にとって深刻な問題は「孤独」ではなかったかということです。
これらの性格はギャンブル依存症を患うタイプの人間だとされています。
交友関係が狭く、人に自分の気持ちを上手く伝えられないタイプの人間は、一人で遊ぶことができるパチンコ・パチスロなどのギャンブルに陥りやすいとも云われるのです。
被告は「借金をしてまでパチンコにのめり込んでいた」わけですから、ギャンブル依存症診断テストに照らしても、依存症の可能性が極めて高いと思われます。
パチンコ・パチスロがこういった孤独を抱える社会的マイノリティの受け皿になってきたことは事実ですが、遠い昔に娯楽の範疇を超え、時代に即さない遊びの範疇を超えたギャンブルとなり、多くのパチンコ・パチスロユーザーが多重債務・貧困・虐待・失業する事態になっているのが現状です。
それはギャンブル依存症対策基本法にも明記されていることであり、社会問題でもあるのです。
そこには、「ギャンブル依存症と自死・犯罪は密接に関連している…」という文言もあり、パチンコ・パチスロによるギャンブル依存症は最悪なケースを招く危険性も示唆しています。
言い方は悪いですが、パチンコ業界は国内で唯一暗黙のルールで許されている民間ギャンブルの胴元として、営利主義に走り、ユーザーの弱みに漬け込んで多くの不幸を生み出したと言っても過言ではありません。
パチンコ関連事件の報道を見る度に、生涯ギャンブル依存症と闘わねばならない同じ身として、どうしても他人事には思えません。
自分もまた、ちょっとした違いで同じようになっていたと常々思うのです。
被告が罪を償い、ギャンブル依存症を乗り越え、更生して家族の元へ帰れることを願ってやみません。
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